ナタデココ
毎年何らかの「スイーツ」がブームになる。そう言いたいが、社会現象的に何かが流行るのは数年に一度な気がする。おそらくメディア的には今年はこのスイーツ流行る、もしくは流行らせたいと思って新しいスイーツを取り上げているのだろうが、不発に終わることも多い。
実際「2023年スイーツ流行予想」という記事を見てみても 「クロッフル」 など、もう1年が半分終わろうかというのに全然聞いたことがないヤツや「ネオ和菓子」など名前の時点でシケっているやつ、そして「ヴィーガンスイーツ」という、一部の人間が猛烈な拒否反応を示しそうなやつしかなく、今年は10年に1度の不作の年なのかもしれない。
そして一度大ブームになったスイーツが再度同じレベルで流行ることは少なく、大体完全に消えるか、良くてほそぼそ残るかだ。それを考えると定期的にブームになるタピオカがいかに異常かがわかる。これは漫画家で言えば3回大ヒット作を生み出しているようなもので、もはやタピオカ先生と呼ぶしかない。
片や、タピオカと大体同じ時期に登場し、当時はタピオカよりも断然流行ったのにその後再ブレイクの兆しがないスイーツもある。それが「ナタ・デ・ココ」だ。今でもヨーグルト飲料に断片が入っているなど完全に消えたわけではないが、センターを務めるスイーツでないことは確かだ。
だが、これが平成初期に入手不可能レベルで流行したのである。当時田舎のリアルキッズだった私も当然ナタデココ難民であり、やっと手に入れた一缶を家族5人で分け合うという戦時中ムーブをした記憶がある。ナタデココがどんなスイーツだったかというと、一言でいえば「イカ刺しキューブ」であり、弾力のある立方体を何らかの甘い汁に漬けて食べる感じだった。
今思えばタピオカと共通点も多く、どこで明暗が分かれたか謎である、丸だったらよかったのか。そんなわけで、多くの流行と同じく1年程度で下火となったのだが、この日本で起こった熱病の煽りを受けた国がある。
それがフィリピンであり、急に日本のナタデココ輸入特需が起こったため大規模なナタデココ工場や原料のココナッツ農園が作られが、ブームが去ったせいで失業者が急増したらしい。
このように「ブームに乗って商売を始める」というのは非常に危険だ。現在閉店しているタピオカ屋のオーナーは今元気だろうか。
📢 【なたでここ】ココナッツの果汁を、酢酸菌の一種である「ナタ菌」で発酵させてゼリー化したフィリピン発祥の食品。平成4年デニーズがメニューに採用し、マスコミが取り上げたことで平成5年に猛烈な勢いで大ブームになるも平成6年には失速し、パンナコッタにその地位を奪われた。
PROFILE
カレー沢薫
どうぶつ社会風刺政治ギャグ漫画『国家の猫ムラヤマ』①②巻、『国家の猫ムラヤマ 解散!』、
健康エッセイ『部屋から出ないで100年生きる健康法』、
SNS心得エッセイ『一億総SNS時代の戦略』(すべて弊社刊)大好評発売中!
弊社エレガンスイブ編集部運営ウェブサイトSouffle(スーフル)にて『 ほがらかSNSライフ 』連載中!
X(旧Twitter)@rosia29
ヤンチャン担当X(旧Twitter)@murayamasoul
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