失楽園ブーム
このコラムは昔旬だった文化や物を紹介しているが、今ホットな文化と言えば「炎上」だろう。「炎上」とは何事かやらかしてしまった人間を大勢で地面につかないように蹴りあう「蹴鞠」に似た雅なスポーツだ。蹴鞠との違いは蹴る物の種類が多彩な点である。中には思ったより跳ねずにすぐゲームが終了してしまうものがある。プレイヤーの中で「やっぱりこれが一番跳ねるな」と人気なのが「バカッター」そして「不倫」である。
現在の日本で不倫は国家の大罪であり、バレれば全国の炎上プレイヤーが「俺に蹴らせろ」と集結し、芸能人であれば活動自粛など、社会的にも大きな制裁を食らうことになる。最近ではただの不倫じゃ物足りないプレイヤーのために「多目的トイレを使用した不倫」や「結婚していることを10年隠して不倫」など、より飛距離をだせる不倫が日夜開発されている。
そんな今の状況からは信じられないが、平成の一時期、不倫が肯定された時期があったのだ。ドラマ「失楽園」が火付け役となり「不倫純愛」という謎のジャンルが誕生し、不倫が「よきもの」として描かれブームとなったのである。
「純愛」といってもプラトニックではなく、正直メチャクチャやっているのだが、不倫だけど俺たち真剣なんですというのが「不倫純愛」である。今思えば我々は、そんな言い訳に惹かれたのではなく「人妻がメチャクチャやっている」の部分に惹かれたのかもしれない。
不倫純愛ドラマはテレビドラマにしてはエロかったし、私も失楽園の原作は読んだがエロかった。今も不倫がバッシングを受ける一方で、人のモノを寝取る「NTR」はジャンルとして受け入れられまくっている。人は不倫に対しては拒否反応を示すようになったが、エロは現在でも全く拒否できていないようである。
ただ、当時も「フィクションなら不倫もあり」としてブームになっただけで、実際リアルで「俺たちも失楽園しちゃう?」と、そりゃ楽園追放されるわなことを言って不倫に興じるカップルが増えたかどうかは謎である。
現在も不倫ドラマはあるし、失楽園などを再放送してもそこまで怒られないと思うが「そんなにマジなら離婚してつきあえばいいのに」というツッコミは避けられないだろう。
結局「不倫だから燃えている」ことは否めず、そこに純愛という言い訳はすでに通らない時代だろう。そんな言い訳を一切廃したのが「NTR」だ、あれはただ人間が性欲に負ける様だけを描き出した潔いジャンルである。
人間はこれからもエロには勝てない、だがどんなエロが受け入れられるかは時代と共に変化している。
📢 【しつらくえんぶーむ】日本経済新聞に連載され平成9年刊行された渡辺淳一の恋愛小説。同年の映画も大ヒットし「失楽園(する)」は同年の流行語大賞に選出され、純愛不倫がブームのようになった。
PROFILE
カレー沢薫
どうぶつ社会風刺政治ギャグ漫画『国家の猫ムラヤマ』①②巻、『国家の猫ムラヤマ 解散!』、
健康エッセイ『部屋から出ないで100年生きる健康法』、
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弊社エレガンスイブ編集部運営ウェブサイトSouffle(スーフル)にて『 ほがらかSNSライフ 』連載中!
X(旧Twitter)@rosia29
ヤンチャン担当X(旧Twitter)@murayamasoul
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