

アメリカの刑務所は「自由」 午後は基本的にフリータイム
――今回はKEIさんと親交のあるHIP HOPアーティストの漢a.k.a.GAMIさん、D.Oさんも交えて、いろいろとお話を伺いたいと思っています。小誌で連載中の『チカーノKEI~米国極悪刑務所を生き抜いた日本人~』はKEIさんがアメリカの刑務所で過ごした日々を原作とした作品です。そこでまずは、日米の刑務所の「違い」について聞かせてください。アメリカの刑務所の1日のスケジュールって、どんな感じなのでしょう?
KEI 囚人によって刑務所内での仕事が違うので人それぞれなんですけど、自分の場合は「ランドリー」で働いていたので起床は朝の4時です。起きたらコーヒーを淹れて、シナモンロールを持って食べながら職場に行きます。職場での担当はミシンだったので、洗濯や囚人服の交換みたいな汚い仕事は一切せずに、奥の部屋でミシンの前に座ります。気分が乗れば作業するし、面倒臭かったらそのまま座って就業時間が終わるのを待ちます。
――仕事しなくても、なにか言われたりはしないんですか?
KEI 自分の場合はなにも言われなかったですね。仕事が終わるのは11時前後。自分の部屋に戻ったらジムに行って汗を流して、昼飯の時間になったら自動販売機でハンバーガーを買って食べます。そのあとシャワー浴びて、昼寝して、16時のカウントを受けて、そこからまたHOMIEたちとジムに行って、またシャワーを浴びて、みんなで夕飯を作って、テレビルームで食事。食後には軽く運動したくなるので全員で腕立て大会が始まります。そのあと、3度目のシャワーを浴びて、各々が部屋で本を読んだり、看守に欲しいモノを頼んだり、時間を潰して夜になったら寝る。そんな感じですね。
起床後5分で着替え&食事 シャワーも3分で済ませる
――D.Oさんは日本の刑務所での生活を経験されていますが、日本の場合はかなり違いますか?
D.O 全然違いますね。日本はもっと細かいと思います。朝は6時半に起床。僕は「配食係」って言ってみんなに食事を配る役割だったんですけど、これが意外と厄介で。そもそも、起きてから食事、着替えを5分くらいで済ませなきゃいけないのに、僕はその食事をみんなに配らなきゃいけない。起きて、着替えて、食事配って、自分も食べて……これを5分です。だから食事はマジで2秒くらいで食べなきゃいけない。
一同 (笑)
D.O いや、ホントですよ。そのあと、点呼されるんですけど「みんな、いるかぁ?」って、いないワケねーだろ……とか思いながらちゃんと返事して、そこから工場に移動します。その時点で7時くらいですかね。ただ、工場の作業はけっこう恵まれていて、人数も少ないし、作業中に話したり笑ったりも全然OKでした。
――担当する仕事によっては、私語厳禁な場合もあるんでしょうか?
D.O 人数が多い別の工場で作業するヤツらの中には、私語どころか目線まで決められていることもあったみたいです。「よそ見厳禁」っていう。途中10分くらいの休憩でようやく喋ってOKになる。ルーティンは工場ごとに少し違うんですけど、我々は昼食後に運動する時間が許されていたんで一番恵まれていましたね。人によっては朝、作業前が運動時間だったりすることもあるので。
――やはりアメリカと比べるとかなり規則が厳しいですね。
D.O KEIさんの話を聞いて思ったんですけど、アメリカでは1日に何度もシャワーを浴びられるんですよね?
KEI アメリカはいつでも入れますよ。特に決まりはないですね。
D.O 日本は風呂に入れる日が決まってますからね。夏場だけは仕事のある日はシャワーを浴びることが許されてますけど、それも「3分」って決まってるんです。しかも、服脱いで、洗って、流して、身体拭いて、服を着るまでで「3分」。とてつもないスピードで浴びないと絶対に終わらない。初めて経験するヤツなんて、悠長に入ってるもんだから体中泡まみれの状態でシャワー止められて「え?ちょっと……」ってワタワタしてましたよ(笑)。みんなでそれ見て大笑いして、ちょっとした催し物でしたね。
何でも手に入るアメリカ刑務所 ただ、そのぶん危険なことも

――『チカーノKEI』には「アメリカの刑務所では手に入らないものはない」と書かれていますけど、実際に何でも手に入りますか?
KEI 囚人用のカタログがあって、そこにありとあらゆる商品が載っているんです。それで、欲しいモノと個数を書いて提出すれば、それが届くシステムです。たとえばオカマの囚人はホットカーラーと口紅を買ったりも出来ますし、本当に外にいるときと変わらないですよ。
D.O 日本も欲しいものを買えるシステムはあるんですけど、もちろん制限はあるし、何よりメチャクチャ時間がかかるんですよ。週刊誌を頼んだことがあったんですけど、届いたのが2カ月後とかで……読んだんですけど「コレ、いつの情報だよ?」って感じで。世の中の情報に全く追いつけない(笑)。
KEI ただ、アメリカの場合は商品が届くと刑務官に呼ばれて受け取りに行って、一式ゴソッと入ったバッグを渡されるんですね。それを担いで、自分の部屋に戻るんですけど……。
漢 部屋まで「辿り着けない」囚人もいるってことですか?
KEI そうですね。見た目で「アイツ、いろいろ買い込んできたな」と分かるので狙われやすい部分はあります。
漢 やっぱりヤバいですね、アメリカは。自由なぶん、危険もある。
――狙われやすい商品とか、あるんですか?
KEI ギャングのメンバーじゃない限り、「全部」です。恐喝されて持っていかれたり、最悪の場合は殺されることもありますから。
漢 いや、やっぱり日本じゃありえないですよね。
――日本の刑務所の場合、手に入るモノ、入らないモノはどんな線引きがされているんですか?
D.O 多少の「個人差」はあるみたいですね。たとえば、性犯罪で捕まった人、刑務所では「ピンク」って呼ばれるんですけど、その人たちは基本的に「エロ系」はダメ。
――罪状によって細かく規定が違うんですね。アメリカはどうですか?
KEI そういう制限は一切ないですね。ただ、たとえばレイプ犯とかの性犯罪者は、入ったらすぐに殺されちゃいますね。
漢 ちょっと話のジャンルが変わってきますね……(苦笑)
――触れてはいけない領域の話になってきた気もするので話題を変えましょう(笑)。刑務所内での仕事には給料は発生するんでしょうか?
D.O 一応するんですけど、衝撃の安さですよ。僕は刑務所での初任給は39円でした。さすがにマジかよ! と思ったんでよくよく聞いたら、締め日の関係で「1日分の給料だ」と言われたんです。でも、よく考えたら1日39円も相当ヤバくないですか? 働いている期間によって給料も多少変わるみたいなんですけど、もらっている人でも月1万くらいだったはずです。とんでもないですよね。
――通常ではありえない金額ですね。ほかに、刑務所内で辛かったことは?
D.O 一番は「空腹」ですかね。もともと、メチャクチャ食うんですよ。でも、刑務所の食事って本当に必要最低限。僕は2年くらい入っていたんですけど、入る前にとにかく食いたいものを目一杯食って、20キロくらい太って入所しました。熊の冬眠みたいな感覚で(笑)。逆に刑務所内では「これは人生に必要なデトックス期間だ」と割り切って、運動の時間はとにかく走ったり、空き時間は筋トレして過ごして、結果的に出るころには20キロ体重落としてでてきましたね。
――KEIさんも、刑務所内では相当トレーニングしたんですよね?
KEI 自分の場合は「瘦せる」というよりは鍛えて体をデカくしましたね。朝は卵の白身を20個分飲んで、ジムでトレーニングして、チキンの缶詰何個も食って。プロテイン代わりなんでマズいんですけど、それを繰り返してましたね。
D.O KEIさんは刑務所でどのくらい体重増やしたんですか?
KEI 自分は入所時が65キロくらいで、出たときは95キロありましたね。でも、ウエストが70センチちょっとしかなくて。帰国したとき、ちょうど息子が高校を卒業するタイミングだったんで友人に「スーツ買ってやる」って言われたんですけど腕が太すぎてサイズが合わないんですよ。結局、オーダーメイドで作ってもらいました。
楽しみは水曜の揚げパン でも、些細なことからトラブルが……
――刑務所内での食事はどうでしょう?
D.O いわゆる「臭いメシ」みたいなイメージはあまりなかったですね。基本的に、そこまで味は悪くない。僕が入っていた刑務所はパンが特に美味しくて、水曜日に出る揚げパンをいつも楽しみにしていました。
KEI 自分もアメリカの刑務所では水曜日に出てくるチーズバーガーは美味かったですね。ただ、それ以外はマズいので食堂には行かず、自分たちで食材を調達して料理していました。
D.O 水曜日は夜がカレーで、朝は基本的にはパンか米が交互に出たかな。でもやっぱり一番人気は揚げパンです。ただ、一度トラブルもあったんです。食事係のヤツが自分たちの揚げパンだけ、袋一杯にきなこを詰めて食べていて、それ以外のヤツらが「俺らと量が全然違うじゃねぇか!」って激怒(笑)。それで喧嘩騒ぎになって、一時的に揚げパンが出なくなっちゃったんです。「マジでふざけんな!」ってみんなキレてましたね。
KEI アメリカなら、即暴動騒ぎですねそれは(笑)。

――KEIさんは今回、D.Oさんや漢さんと「No Bully」という曲をリリースされたんですよね?
KEI はい、D.Oさん、漢さんやZeebraさんら、たくさんのアーティストの方に協力してもらって、『いじめ撲滅チャリティーソング』の『No Bully』をリリースさせてもらいました。
――どういう経緯で、「いじめ撲滅」のチャリティーソングを企画したのでしょう?
KEI アメリカの刑務所を出て、日本に帰ってきてから、子どもたちの育成や非行防止の活動を続けているんですけど、その中でも「いじめ」はかなり根深い問題です。大人たちがいくら正論を言っても、子どもたちには響かないことも多い。ただ、加害者の中にはいわゆる「ヤンチャ」な子どもたちも多くて、彼らにとってミュージシャンは「ヒーロー」だったりするんですよね。親や教師が頭ごなしに「いじめはダメだ」と言うより、彼らのヒーローから「いじめはカッコ悪い」と言ってもらう方が、響くんじゃないかな……そう思ったのがキッカケです。
D.O 「いじめ」って、子どもはもちろん大人の世界にもあって、気づけば僕らも大人、いわゆる親の世代になっちゃったんですけど、何歳になろうが強いヤツらが弱い人間を、しかも大人数で攻撃するってやっぱりカッコ悪いですよね。僕らみたいな人間が「良い、悪い」を語るなんておこがましい、という思いもあるんですけど、そこだけは言い切れるかなと。おっさんになったからこそ言えることもあるし、刑務所の話じゃないですけど「いや、それはおかしいっしょ」とちゃんと言わなきゃいけないし、言える世界であってほしい。日本ってそういう国だったんじゃねーの? って。今回、KEIさんに声をかけてもらって『No Bully』に参加させてもらいましたけど、僕自身はそういう思いも込めたつもりなので、いろいろな人に聞いてほしいですね。
――貴重なお話、ありがとうございました!
「No Bully」好評リリース中!
HOMIE KEIとZeebraが「音楽でいじめを撲滅したい」という思いで始動させたプロジェクト。
OZworld、KEIJU、IO、D.O、漢 a.k.a. GAMI、GDX a.k.a. SHU、JESSE(RIZE/The BONEZ)、ANARCHY、BOO a.k.a. フルスイング、田中雄士、般若と計12人のアーティスト・ラッパーも参加し、いじめのない社会を実現させるためのメッセージを発信している。
■撮影協力/9SARI GROUP/9SARI CAFE & BAR
■インタビュー・文/花田雪
■カメラマン/宮木和佳子
▼漫画本編はこちら!
