エアマックス狩り
何の予告もなかったが、この連載は今回からテーマが変わる。いきなりのことに私が一番困惑しているが、テーマ以前に「書く奴を変えよう」という話にならなかっただけマシである。
新テーマは一言でいうと「平成を振り返る」だ。懐古主義などパっとしないと思うかもしれないが、日本は少子高齢化である。すでに若者に未来を語るより中高年相手にバンプオブチキンを口ずさんだ方が耳を傾ける人数が多いという有様なのだ。ちなみにバンプがすでに懐メロ扱いなことに驚くのも中年特有の動きである。だが滅びゆく国だからこそ歴史として記しておく必要がある。
そんなわけで初回は「ルーズソックス」とか「たまごっち」など無難な話をしようと思っていたのだが候補の中にあった「エアマックス狩り」という文言に爆笑してしまったのでこれにする。
平成初期ごろからスニーカーブームが起こり、特にエアマックスというナイキ製のスニーカーが人気を集め長らく品薄が続き入手が困難であった。買うことができないならどうすれば良いか、答えは簡単である。持っている奴から奪えば良いのだ。
そんなわけで日本には、エアマックスを履いている奴を襲い靴を奪うという「エアマックス狩り」が出没するようになったのだ。そういえば同時期に「オヤジ狩り」というのも流行っていたので、四半世紀前まで日本人は狩猟民族だったのかもしれない。
しかし、エアマックスが欲しいという動機で本当に人を襲っていたのか。今でいう転売目的で組織的にやっていたのではないか。
調べて見ると実際転売目的で奪われるケースも多かったようだがガチで「エアマックス履きたい」という動機のみで一狩りしに行った者もいたようだ。こんなに元気がある若者が大人になった現在の日本がこんなに元気がないのはおかしいのではないか。
老害的に言うなら「俺たちが若いころは欲しいものがあったら後ろからバットで殴ってでも手に入れたもんだ。それが今の若い者は、メルカリで転売ヤーの言い値購入しやがって」という感じである。
確かに昔に比べて現在は「いかに法に触れずに悪いことをするか」という犯罪イライラ棒が主流になっているので、それに比べたら昔の若者は小賢しくなくて可愛いと言えなくもない。
そこまでして手に入れたかったエアマックスもブームは去り現在は「ゲッツ!」と同じく「エアマックス!」という一発ギャグカテゴリにすらなっている。
タピオカに1時間並ぶぐらいなら良い。だが流行りのために少年院に3年入るような真似をしてはいけない。
📢 えあまっくすがり
ナイキのスニーカー・エアマックスが爆発的に流行し、若者が徒党を組んで履いてる人から強奪するという事件が相次ぎ社会問題に。平成7〜8年頃。
PROFILE
カレー沢薫
どうぶつ社会風刺政治ギャグ漫画『国家の猫ムラヤマ』①②巻、『国家の猫ムラヤマ 解散!』、
健康エッセイ『部屋から出ないで100年生きる健康法』、
SNS心得エッセイ『一億総SNS時代の戦略』(すべて弊社刊)大好評発売中!
弊社エレガンスイブ編集部運営ウェブサイトSouffle(スーフル)にて『 ほがらかSNSライフ 』連載中!
X(旧Twitter)@rosia29
ヤンチャン担当X(旧Twitter)@murayamasoul
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