1999年人類滅亡
私も去年ついに40歳になったのだが、こうやって今も生き恥をさらしているのは大体ノストラダムスのせいである。
流行というのは集団催眠のようなもので、過ぎれば「アレは一体何だったのか?」とそれに熱狂していた理由もわからなくなるのだが、その中でもノストラダムスの大予言はアレ何指数がズバ抜けて高い逸品である。
ノストラダムスとは、と説明しようと思ったが、彼について何一つ知らないことに気づいたため、今ググったところ16世紀生まれのフランス人だそうだ。彼は医師だが占星術師でもあり、さらに料理研究もしていたらしい。
今でもたまにいる、多才すぎて胡散臭くなってしまった人だが、日本では「ノストラダムスの大予言」という詩集で有名であり、その中に「1999年に人類は滅亡する」という予言があったのだ。
何故滅亡するのかというと、私の記憶では「恐怖の大魔王が来るから」だった気がする。今思えば、片手にワンカップを持っている人が昼間の公園で言ってそうな話だが、ノストラダムスはそれまで数々の予言を的中させていたらしく、世界滅亡も割とガチで心配されていたのである。やはり言葉の説得力というのは内容ではなく、誰が言ったかが重要なのだ、私が同じことを言っても「とりあえず昼酒をやめろ」としか言われない。
ノストラダムスにとっては1999年など遠い未来であり、予言が当たろうが当たるまいが自分は死んでいるのでどうでもいいだろうが、不幸にも1999年にぶち当たった世代はそこそこ不安を感じながら生きる羽目になってしまった。それがまさに平成であり、予言が本当なら平成11年に人類は滅びていたのである。
結果は見ての通りだが、今でも大きな災害や事件が起こると「実はノストラダムスが予言していた」みたいな話が出てきたりする。これだけ盛大にスベってもまだ信じる人がいるのだから、恐怖の大魔王より人間の信仰心の方が怖い。
逆に言えばノストラダムスが予言してしまったせいで人類は滅亡しなかったともいえる。恐怖の大魔王的には「サプライズ」で人類を滅ぼしたかっただろうに、それを400年以上も前からリークされたら萎えるに決まっている。
しかも「恐怖の大魔王とは」と考察されまくってしまい、ハードルが上がりすぎてしまった。こんな状況で出てこれる奴はなかなかいない。おそらく大魔王の方が恐怖していただろう。
そして結局プレッシャーに耐えかねた大魔王のドタキャンにより人類は未だに滅亡していないのである。
ノストラダムスの予言は外れたかもしれないが「言うことを信じてもらいたかったらまず己の信用度を上げろ」「人のサプライズをバラすな」など、貴重な教訓を残してくれたのは確かだ。
📢 【1999ねん7のつき】五島勉の著書『ノストラダムスの大予言』にて解釈・掲載された人類が滅亡する日。平成11年7月、実際には滅亡せず今に至る。
PROFILE
カレー沢薫
どうぶつ社会風刺政治ギャグ漫画『国家の猫ムラヤマ』①②巻、『国家の猫ムラヤマ 解散!』、
健康エッセイ『部屋から出ないで100年生きる健康法』、
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弊社エレガンスイブ編集部運営ウェブサイトSouffle(スーフル)にて『 ほがらかSNSライフ 』連載中!
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ヤンチャン担当X(旧Twitter)@murayamasoul
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