310861 21345 21345 false 0Qr4eeCmq72QfuFkk6rtHRNwla3WDGcO 2fc9a26d33fcf0e9de9baadd19a6683e 『馬賭け』発売記念企画 やまさき拓味×川島明 特別対談 0 0 8 false
ヤンチャンWebさんの作品:『馬賭け』発売記念企画 やまさき拓味×川島明 特別対談
漫画雑誌のヤングチャンピオン(秋田書店)で連載中の「馬賭け」の最新2巻が好評発売中だ。競馬漫画の金字塔「優駿の門」シリーズを手がけた漫画家・やまさき拓味氏(75)が、競馬の世界の裏に潜む闇の〝馬賭け〟を描く意欲作だ。今回は作者のやまさき氏と、「優駿の門」シリーズなど漫画好きとして知られるお笑いコンビ、麒麟の川島明(46)が特別対談。名作誕生にまつわるエピソードや、互いの競馬愛があふれた。

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川島
先生の『優駿の門』を知ったきっかけは、もともと僕が競馬好きだったからです。京都競馬場が実家の近くにあり、競馬好きの親戚のおじさんもいたので、その方について行ってみていたんです。競馬漫画に興味を持ち出したのは中学生の頃。お金もそんなに持っていませんでしたが、『競馬の漫画だけは買っていい』というルールを自分の中に作っていて(笑)。当時は『風のシルフィード』『競馬狂走伝ありゃ馬こりゃ馬』『みどりのマキバオー』とか、たくさんありましたから。だから実家の本棚には競馬の漫画と『ドラえもん』しかないんです。その時に『優駿の門』を見て、本当に絵の力とストーリーが大好きで、すぐにハマりました。

やまさき
『優駿の門』を描こうと思ったきっかけはトウカイテイオーなんです。1年ぶりの復活勝利(1993年、骨折から1年ぶりの復帰戦となった有馬記念で1着)をみた当時の担当編集が、『ドラマにならないですかね』といってきたところから始まったんです。

川島
もともと競馬はお好きだったんですか。

やまさき
僕は、ハイセイコーの頃から。でも漫画にするつもりは全然なかった。毎朝、平日の2、3レースくらいから大井競馬場に行って、パドックにかじりついてずっと馬を見ていたんです。

川島
馬券は買っていたんですか。

やまさき
買っていたと思いますが、とにかく馬を見るのが好きで、2、3レース見てから仕事にいってました。

川島
馬そのものにも興味があったんですね。

やまさき
そう。ただ当時の編集長は競馬嫌いで4回だけの短期企画になっちゃったんです。でもここからが奇跡的なんですけど、4回終わった時点で、その編集長が変わっちゃった。次に新しく来た編集長はめちゃくちゃ競馬好きだった(笑)。それで連載になったんです。

川島
すごい運命ですね。じゃあ編集長が変わっていなかったら続いていなかった。

やまさき
もう連載ないですよ。シリーズにもなっていないと思います。連載も編集部はみんな反対で、競馬好きの編集長と担当編集だけが推してくれていたんです。

川島
危ないところでしたね。僕も競馬を好きになった頃に見たのが、トウカイテイオーの復活劇だったんです。一緒に競馬を見ていた兄が「1年間休んで勝てるほど甘くない」といっていたのを覚えていて。復帰するだけでもすごいのに、有馬記念のレースを見て、兄を含めた家族全員でひっくり返った(笑)。その後の田原(成貴)騎手がインタビューで号泣していたのを覚えています。競馬はドラマチックで、ファンも盛り上がって、こんなにすごいスポーツなんだって実感したことが、競馬を熱心に見るようになったきっかけです。きょうもトウカイテイオーがつないでくれた縁に感謝です。

やまさき
その通りですね。『優駿の門』を読んでいただいてうれしいです。

 

川島
『優駿の門』の魅力は物語が美しいところですね。(作中の競走馬)アルフィーにしても(物語の主人公)優馬にしても全員がエリートじゃない。牧場で育って地方競馬から、中央競馬に乗り込んでくるというストーリーで、本当にオグリキャップとかを彷彿とさせています。衝撃的だったのはアルフィーという馬がダービーで死んでしまう。こんなに悲しくて切ない話はない。これからライバルたちとの戦いもあると思っていたところだったので。でも競走馬も突然にけがで引退することもある。そこもすごく残酷だけど、リアル。だからこそ衝撃を受けました。

やまさき
長編の作り方と読み切りの作り方は違っていて、読み切りはラストから作りますけど、長編の場合はラストは何も考えていないんです。

川島
そうなんですか。

やまさき
毎週毎週、これどうしよう。次どうなんだろうって。馬でも人でもキャラクターが際立ってくると、担当と2人でこうしよう、ああしようって展開を考えてもその通りにいかないんですよ。

川島
面白いですね。

やまさき
(作中の競走馬)クレイジー、ゲートからでないの⁉ みたいな。自分でも驚いている。

川島
ストーリーは描きながら、みたいな形ですか。

やまさき
そうです。毎週毎週(が勝負)ですね。

川島
アルフィーの故障とかも事前に決めていたわけではないんですか。

やまさき
アルフィーに関しては、すぐ死んでしまう予定だったんです。ふっと消えてしまうはずだったんです。

川島
もっと早い段階で、ですか。

やまさき
そうです。2、3話でどこかへ行ってしまう話だったんですが、それが描いていると、なんか頑張るんですよ。あの馬(笑)

川島
生きているんですね。消せなくなっちゃうんだ。

やまさき
(作中で生きようと)頑張るから、どうしようって感じですよね。

川島
描きながら、(感情移入してしまって)泣いたりしないんですか。

やまさき
つらいときもあります。でも本当にね、担当が『(作中で)アルフィーを殺すな』っていい出しちゃって…そのときは困った。

川島
もうスターホースですからね。

やまさき
でもだからこそ僕は(作中で)アルフィーを殺したくなってしまって…最終的には僕の意見でああなったんです。というのも描きたかったシーンがあったんですよ。(作中でアルフィーを世話した調教助手)小林の膝で死んでいく場面、これを描きたかったんですよ。厩務員さんの膝で死んでいった馬がいたというのは、取材時に聞いた実際のエピソードで、『めちゃくちゃ重かったんだよね』というその方の言葉が忘れられなくて。

川島
それもリアルだったんですね。

 

 

やまさき
作中に出てくるエピソードは漫画的なものも含めて、実際のモデルがあります。面白い話で、たばこを吸う馬がいるというんです。

川島
本当ですか。

やまさき
本当に吸うわけではなくて、吐かれた煙を吸っているということなんですけど、厩務員さんが吸っているタバコしか吸わないんです。

川島
煙がいいんでしょうか。

やまさき
でも厩務員さんが吸っているたばこの煙じゃないとダメなんです。

川島
その厩務員さんが好きだからですかね。読んだ時の年齢によってまた違うんですけど、小林があんなに重要なキャラクターだと最初は思わなかった。僕も去年、イクイノックスなどがいる牧場に行ったんですが、1頭だけ、水に飼い葉を浸してから食べる馬がいたんです(笑)。誰が教えたわけでもないと思いますが、お茶漬けみたいだなと。なんだか人間っぽい一面もありますよね。

やまさき
ナリタブライアンも角砂糖が好きでしたよね。砕いて雪にまぶして食べるんですよ。

川島
シロップみたいですね。でもアルフィーがいなくなるっていうのは決めていなかった。そういう意味では、行き当たりばったりなんでしょうか。

やまさき
その時、その時ですね。ラスト決めていないですから。わからないんですよ。こっちも(笑)

川島
描きながら決めていくということですか。

やまさき
一応は(結末を)決めて描いているんですが、こうした方がいいなと思ったら、なんか変わっちゃっていくんですよ。でも自分がそれでいいと思ったら、それがいいんですよ。

川島
そう描きたかったってことですもんね。ファンの反応も気になったのではないですか。『この馬人気だからもう少し登場させよう』というふうに。

やまさき
そういうのもありましたね。でもファンレターで『今度は殺さないでくさい』って言われちゃってね。

川島
リアルが故に(故障など不幸な展開もある)…なんですけどね。厩舎や馬の取材はどうされていたんですか。

やまさき
もう僕の漫画は『取材が命』ですから。スタッフにも玄人にもわかる漫画を描きなさい、とよくいっています。その道の人が『すごいな』って思えるようなね。

川島
プロの方はわかりますからね。

やまさき
それ(リアルさの追求)がハマったんだと思うんですけどね。読んでくれた厩務員さんがトレーニングセンターの朝の風景に感動してくれたり、騎手の方から『あのシーンすごかったね』と連絡をいただいたりもしました。

川島
馬にも実在する血統も出てきますよね。

やまさき
そうですね。架空のものもみんなモデルがあります。自分で競走馬を持っていたこともあります。競走馬は高額なものなので、気軽に触れることができないんです。だったら自分で馬を持とうと思って。

川島
取材のためもあってですか。

やまさき
自分で競走馬を買って、高崎競馬で走らせていました。そうしたらスタッフに見せることもできる。だって僕がオーナーだから(笑)

川島
それはすごい。

やまさき
触ってみて、馬の頬があんなに硬いと思わなかった。皮と骨だけだった。

川島
それは写真だとわからないですよね。

やまさき
わからないですね。

川島
その実感などが、漫画に反映されている。

やまさき
どこかに出てきてると思います。

川島
登場人物のイメージも取材から着想を得ているんですか。

やまさき
モデルは厩務員さんも、ジョッキーも、調教師さんも全部います。足している場合もあって、(主人公の光・)優馬は福永洋一騎手、と田原成貴騎手。

川島
だから優馬には破天荒な部分があるんだ。

やまさき
自分が好きな方ばかりですね。

川島
登場するキャラにも好みが反映されている。

やまさき
最近でいうと(気性が激しいことで知られた)オルフェーブルみたいな。面白いですよね。何するかわからないじゃないですか。

川島
僕はオルフェーブルが出てきた時に、(作中に登場する同じく気性が激しい)ボムクレイジーとすごい重ねたんですよ。気にくわなかったら騎手も落としちゃうところとか。先に漫画に出てきたものが現実で出てくるという。機嫌をそこねたら終わりというところも、本当にボムと一緒。

やまさき
あの頃は『馬はこういうことはしないだろう』っていうことを漫画にしていたんですけどね。

川島
僕が『優駿の門』の中で一番好きな馬もボムクレイジー。アルフィーは優等生で、一途で、美しい馬で、という部分と全部が逆の存在。まったく主役感がないのもいい。どうなるかわからないけど、爆発したらとんでもないところも魅力。

やまさき
クレイジーは(凱旋門賞を勝った)ダンシングブレーヴがモデルなんです。アメリカにいって見たことがあったんですが、『かみつくから近づかないで』といわれたことを覚えています。

 

川島
最新作の『馬賭け』では『優駿の門』とは違った作風で競馬を描かれていますが、着想はどんなところにありますか。

やまさき
これは編集部の要請が大きかったんです(笑)。僕が漫画を描き始めるときは、タイトルから入るんです。タイトルが決まればもう話が半分できたというような感覚ですね。

川島
それくらいタイトルは大事ということですか。

やまさき
だからタイトルばっかり考えていた。そこで行き着いたのが『馬賭け』。明治の頃、日本人は競馬のことを『ウマカケ』と呼んでいたそうなんです。そこからですね。

川島
主人公というと、天才が多かったと思いますが、今回(の主人公・一会)はだらしなくて…幼なじみ(哀歌)のお金に手をつけるという…令和にはなかなかお目にかかれないですよね(笑)。だから競馬はメインではなくサブというか…それよりも陰謀や闇を感じるという。だから取材は難しかったんじゃないでしょうか。

やまさき
いままでやってきたような取材はできないので、難しさはあります。

川島
もう哀歌が心配です。そこを含めてどうなっていくのか注目しています。一会はいち競馬ファンの立場ですが、先生のいちファンとして馬券を買っていた頃の思いも少し入っているんでしょうか。

やまさき
それはあります。主人公に少し投影されています。そういう部分を描いていきたいのですが、なかなかそこまでいけない(笑)

川島
それはめちゃくちゃ読みたいですね。

やまさき
競馬ファンの心理というかね。同じ失敗を繰り返すという…。

川島
今後はどのような展開になっていくんでしょうか。

やまさき
うーん、それはねぇ…僕にもわからないですね(笑)

川島
やっぱり描きながらというところでしょうか。

やまさき
頭の中にはラストは凱旋門賞か、ドバイ(ワールドカップ)というのはあるのですが…。

川島
そこで『馬賭け』が行われる?

やまさき
そこで主人公が…!っていうのがあるんですけど…。こればっかりは、描いてみないと、どうなるかはわからないですね。

川島
でも…(作中に登場する一会の兄で騎手の)一期はもういない。

やまさき
そこは新しい騎手が出てくるんじゃないですか。

川島
そうなると一会との関係性が気になりますね。すごく楽しみにしています。

 

対談終了後、やまさき氏から川島へ、アクリル絵の具で描いた、優馬とボムクレイジーの絵画がサプライズでプレゼントされた。「絵を描くのは趣味。まったくストレスにならない」と語るやまさき氏は、執筆の合間を縫って今でもキャンバスにむかう。その作品は単行本の表紙などを飾ることもあるそうで今回、川島に贈ったのもその1つ。川島は「すごい。僕の好きなクレイジーだ」と大感激。大事そうに抱えながら「玄関に飾らせていただきます」といつまでも見つめていた。

 

 

撮影/蔵賢斗

面白かったら応援!

3日前