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ヤンチャンWebさんの作品:特別企画 今村翔吾×藤堂裕 「信長を殺した男」対談
別冊ヤングチャンピオン(秋田書店)で好評連載中の 「信長を殺した男 日輪のデマルカシオン編」 の最新7巻が、好評発売中だ。最新の研究史料をもとに戦国の覇者・豊臣秀吉の実像と史実を紐解く歴史漫画。今回は作者の 藤堂裕 氏(45)と、同じく歴史をテーマに執筆する直木賞作家、 今村翔吾 氏(40)が特別対談を行った。ともに関西出身の2人が歴史をテーマに創作を行う醍醐味、連載を抱える苦労など、大いに語り合った。

 

 特別企画 今村翔吾×藤堂裕 「信長を殺した男」対談

  藤堂 「キャラクターに『風が吹いている』」
 
今村 「研究材料は漫画やアニメが多い」

 

藤堂
今村先生の作品がめちゃくちゃ面白いっていうのと、歴史小説を書いて、現代に問題提起するという姿勢にとても共感でき一度、お話ししてみたかったんです。

今村
ありがとうございます。

藤堂
一番好きなのは、キャラクターに『風が吹いている』というか、一つの目標や夢、意志に向かって臆さず進んでいく主人公の姿が、読んでいて気持ちがいいんです。小説だから字を読んでいるのに『風』を感じる。特に今村先生は『花鳥風月』を大事にして書いていらっしゃるので、本の中に主人公が実在している感じがすごく気持ちがいいです。

今村
ありがとうございます。僕は漫画がすごいと思うのは、文字で表現してしまったらかっこ悪いとか、笑えない部分を、絵と文字で一気に展開してくれる。自分は、これが本当はやりたかったんだよなと思う部分はあります。

藤堂
ただ今村先生の
『イクサガミ』 などでは、必殺技が出てきます。あれはすごく漫画的だと思います。

今村
僕らの時代小説、時代物というジャンルは、高年齢層に支えられています。いずれは世代交代していくわけですから、僕の目指すところは、若い人たちにいかにリーチするかということなんです。なので最近、小説を読むより、漫画を読んで勉強させてもらっています。今の研究材料は漫画やアニメが多いですね。

藤堂
執筆するときも、頭の中に具体的なイメージがあるような感じですか?

今村
ここは引きで見せたいなとか、鳥の話を出すことで、できる限りドローンで撮影したような映像を想像してもらおうかなとか。逆にカメラのどアップみたいなイメージを強制的に押し付けることもあるという感じですかね。読んでいる方の自由なんですけど、時には僕ら(書き手)がある程度は導いてあげる。導きたいと思っています。

藤堂
僕も緩急というか、リズムはかなり意識しています。ポンポンと引いてから、ドーンっていうカットにしたりとか。コマとコマの行間を読んでもらうような感覚ですね。

今村
その話で思ったんですが、藤堂先生の作品は物語の中でも、緩急がついていると思います。本筋と関係ないところは1つの絵でバンって終わらせている。主人公と読者の伴走力が切れないようにしているなというのはすごく感じます。

藤堂
伴走力ですか。

今村
ある程度、作家は読者を引っ張ってあげないといけないと思っているんです。書きたいこと、やりたいこと、見せたいことがあっても、必ずしも読者が望んでいることじゃなかったりすると、変なところにいっちゃうんです。やり過ぎると、読者の伴走力は切れてしまうんですね。藤堂先生はそこもうまいと思いました。

藤堂
今村先生も途中でポンと謎を置いて、読者の気を引かせて、最後まで読んでもらうというような、そういう演出というか、やり方をしていますよね。

今村
そうですね。そこはお互いに試行錯誤という感じでしょうか(笑)。

 

 歴史を題材に創作を行う醍醐味

  藤堂 「文字と文字の間をつなげる作業が一番楽しい」
 
今村 「いろんな考えや解釈が出てくる方がいい」

 

藤堂
あと気になったのは、こんなに忙しいのに、史料などはいつ、どうやって調べているんですか。

今村
僕はデビューするまでにかなり本を読んでいました。これがまず第一ですね。作家になる人って読書量が多いと思っていたんですけど、作家同士で話しても、歴史小説、時代小説は僕が一番読んでいます。いっぱい読んでいると、気になったときに読んだことのある作品の中に出てきているので、史料にすぐあたれるんです。最短距離でいけるので、取材時間も意外と短いです。史料よりも専門家に聞く方が早いこともあるので、会いに行ってしまいます。作家っぽくない行動力もありますから。

藤堂
僕はもともと、歴史が全然好きだったわけじゃないので、もう手当たり次第に読む感じですね。

今村
でも好きじゃなかったのに、ここまで描くことができるんですか。

藤堂
その分、先入観はないので、信長はこう、明智光秀はこう、っていうのがないんです。それが逆によかった。

今村
僕も歴史観はある意味プレーンだと思います。藤堂先生の漫画で描かれている秀吉像は、けっこう新しいと思います。でも本来こっち(ずる賢く残忍)であってもおかしくない。朝鮮出兵の秀吉を知っていれば、逆算すると、もともとああいう部分を秘めた人だったと思う方が、自然ですよね。

藤堂
出自とか、後の朝鮮出兵を考えるとそうですね。ただ僕は秀吉自体はもうめちゃくちゃ好きなキャラクターなんです。漫画では悪人に書きすぎていると批判もありますが、別に悪人でも、かっこいいと思うところもあって。悪人でも、善人でもある、あんな化け物みたいな人はいない。

今村
おもしろい人ですよね。

藤堂
あと今村先生は過去の著作で信長は(スティーブ・)ジョブズだ。人物像が近いというようなことを書いておられて、僕もまさしくそう思っていたんです。

今村
そういう雰囲気がありますよね。だからもう一回、再定義していく方が、いろんな解釈があっていいと思う。そうやって次の世代の漫画、小説の中でいろんな考えや解釈が出てくる方が僕はいいと思うんです。

藤堂
そうですよね。

今村
ただこの業界においてはやっぱり一人の巨人、司馬遼太郎という壁があるんです(笑)。ここをアンタッチャブルにしてきた過去があるので、僕はむしろ真っ向からそこに挑んでいく40代にしたいと思っています。(坂本)龍馬をやりたいなと…、無謀にも真っ向勝負(笑)。でも司馬先生だって吉川英治先生を乗り越えてきたんだから、アンタッチャブルは違うと思うんです。

藤堂
やっぱり当時の日記とか、重要な事件とかの間って、実際はわからないので、その文字と文字の間をつなげる作業が一番楽しいんですけどね。こういう感情で、思いで行動したんじゃないかとか。

今村
それは僕もそうかもしれない。明智光秀の前半生とか、わからないことが多くてなんでもありですからね。

藤堂
明智光秀も(史料上は)急に出てきましたからね。

今村
でもそこらへん(分からない部分をどう描くか)が作家の腕の見せどころだと思います。

 

  キャラクター作りや物語構想の秘密

 藤堂 「一回描いて…もう一回⁉」
 今村 「設計図はあんまりない」

 

今村
考えてないっちゃ考えてないですよね。その都度都度は。

藤堂
確かにそうですね。

今村
設計図はあんまりないんです。
『人よ、花よ』 も設計図はないんです。最後、主人公(楠木正行)が死んでしまうのは決まっていたのですが…。

藤堂
それはそうですよね。

今村
ただ今回、初めて自分がどうやって書いているかを、言語化できると感じた瞬間がありました。冒頭で夜に主人公が母親と話すシーンです。読者にいったん、普通の定説を提示して、その上で『これから違うことをやりますよ』としたかった。南北朝時代は複雑なので、文字ばっかりだと絶対に飽きられると思ったんです。ただ、会話のシーン書いている瞬間にちょっと、読者に『飽きられている』という感じがしたんです。なにかSNSなどを見たわけでもないんですが、このシーンは『これ以上危ない。飽きられる』と感じたんです。なのでいったん切り上げて、とにかく話を動かそうと、次は主人公と、悪党たちとのアクションのシーンにしたんです。自分と読者の2人がこの作品を見ているという感覚があるのかな。

藤堂
それはすごいな。

今村
漫画家さんもそうなのかも知れないけど、作家には『ライブタイプ』と、『コンサートタイプ』がいると思います。徹底的にオーケストラをそろえて、訓練してドンってすごいものを見せる人と、観客が盛り上がっているから、もうちょいいったれ、みたいな人。それを考えると僕はライブタイプなんです。

藤堂
アンコール何曲やるの⁉ みたいな(笑)

今村
それぐらいライブ感で書いています。原稿200枚のプロット作ってから、執筆に臨む人もいますが、藤堂先生はどうしていますか。

藤堂
僕はけっこう考える方ですね。月1回の連載で、1カ月間あるので、けっこう考えちゃいますね。始まりはこうして、あとこうして、それで1回書いて、いや、全然おもしろくないなって、もう一回みたいな。

今村
漫画家さんも『ライブタイプ』の人いるんですか。

藤堂
やっぱり、週刊連載は『ライブ』じゃないですかね。

今村
それじゃあ月刊連載の方は『オーケストラ』なんですかね。

藤堂
例えば週刊連載の作家さんは『ライブ』の方が多いでしょうね。時間の制限はかなりあると思うので。(ドラゴンボールなどで知られる)鳥山先生も『次どうしよう』みたいなことを毎週悩んでいたと聞いたことがあります。

 

 2人が思う豊臣秀吉の人物像

  今村 「二重人格」
 
藤堂 「一カ所だけやり直せるとしたら…」

 

今村
僕は秀吉に対して同情的で、二重人格だと思っているんです。表向きの作った顔をやっていったがゆえに、その顔すら本物になってしまった。出てきた時は天性の明るさだったのに、本当に人格が乗りかわっている感覚で、その精神バランスが崩れてしまったと思います。

藤堂
連載ではこれから慶長の役を描きます。秀吉は途中で死んでしまいます。もう晩年の晩年ですね。書いていても、精神的につらいです。本当に悲惨で。

今村
僕はいつも秀吉ってどうしたら、よかったんだろうって思います。いろんなターニングポイントがあったと思いますが、一カ所だけやり直せるとしたら、どこなんだろうと考えますね。

藤堂
描いていて、秀吉も欲があって野心があって、多くの家臣がいて、国の運営があって、世界の状況もある。もうやるしかしょうがない、どんどんと広がっていった感じがします。

今村
秀吉はもともと一人じゃないですか。

藤堂
孤独ですよね。

今村
だからいくらまわりに人がいても、孤独はずっと途切れなかった。そこは作家とか、漫画家とかに近い感覚もあるのかなって。

藤堂
もう生まれた時から孤独だったと思うんですよ。身分が低くて、容姿にも問題があって。だからやっぱりその幼少期に味わった孤独を埋める。そのコンプレックスを埋めるためにどんどん強くなっていったんではないでしょうか。でもこの『飢え』というか黒い部分って埋まらないですから。

今村
でも秀吉の朝鮮出兵を描くことは珍しいですよね。

藤堂
そうだと思います。

今村
やっぱり避けては通れない、大事件。

藤堂
ニュートラルなつもりで書いています。韓国側の史料に載っていることもベースに描いているんで、思想は抜きにして。

今村
実は僕も朝鮮出兵に挑戦しようと思っていて、石田三成の三部作にするつもりなんです。一部が『八本目の槍』で、二部で政治のことをやって、最後の三部はみなさん『関ケ原の戦い』と思うだろうけど、僕は『朝鮮出兵』で書こうと思っています。幼少期、政治、外交を書くんです。

藤堂
それは読んでみたいですね。

今村
戦争を始めるのは簡単だけど、終わらせるのはすごく難しいという話にしたいんです。

 

PROFILE

今村翔吾(いまむら・しょうご)

1984(昭和59)年6月18日、40歳。京都府生まれ。関大卒。ダンスインストラクター、作曲家、守山市埋蔵文化財調査員を経て2017年、「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」で作家デビュー。「八本目の槍」で吉川英治文学新人賞、「塞王の楯」で直木賞を受賞。来月7日には、22年8月から約1年半にわたり朝日新聞で連載した「人よ、花よ、」が刊行される。

藤堂裕(とうどう・ゆたか)

1979(昭和54)年11月18日生まれ、45歳。兵庫県出身。東京工芸大卒。99年に小学館新人コミック大賞のヤング部門で「龍-RYU-」が佳作を受賞。2002年にデビューし、アシスタントを経て、「由良COLORS」「S-最後の警官-」など人気作を連載。現在、別冊ヤングチャンピオンにて「信長を殺した男~日輪のデマルカシオン~」を連載中。

 

人よ、花よ、
軍神と崇められる楠木正成を父に持つ正行は、戦なき世を求めて、北朝に降る決意を固める。それは、楠木家こそ挽回の鍵だと頼みにしている南朝を滅亡に向かわせることに他ならないのだが……。朝日新聞の大人気連載、待望の単行本化!

 

信長を殺した男~日輪のデマルカシオン~
「信長を殺した男」シリーズはコミックス累計発行部数250万部を超える歴史漫画のヒット作。明智光秀が織田信長を討った「本能寺の変」の真相に迫った前作に続き、「日輪のデマルカシオン編」では豊臣秀吉の実像と史実を最新の研究資料をもとに紐解く。最新7巻では朝鮮侵攻の休戦に向けた和平交渉の裏側と、豊臣家待望の嫡男・秀頼誕生の秘話が明かされる。

 

撮影/福島範和

 

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4日前